フロントランナーインタビュー

INTERVIEW
02

株式会社 スピングラス・アーキテクツ
代表取締役社長・建築家
株式会社 大央 代表取締役社長
NPO法人 福岡建築ファウンデーション 理事長

松岡 恭子 さん

福岡市出身。
92年に建築設計事務所を設立以来、学校、集合住宅、商業施設などを通して、地域の魅力を高める建築を国内外でデザイン。九州を代表する長大海上橋「北九州空港連絡橋」を完成させたのを機に、公園や道路などの土木建造物のデザインも展開。設計を手掛けた水上公園は、多くの人を魅了する公共空間として話題を呼んだ。市民に福岡の優れた建築を紹介し、子供の建築教育も行うNPO法人の理事長も務める。

2019年04月22日

天神は、九州と外をつなげるハブ。オープンテーブルの議論で、国内外の人々を引き寄せる豊かな営みを作っていってほしい。

福岡で感じるのは、取り組みの波及力。
お金を使わず楽しめる場所としては、まだまだ途上

松岡社長はこれまで建築家として国内外の様々なプロジェクトを手掛けられていますね。

色んなところに行ってきましたが、一か所でどっぷり活動してきたわけではなく、メガロポリスも地方都市も、行ったり来たり。常に併走している状態でした。今の拠点は福岡ですが、やはり取り組み自体は色々なところに出かけて、色んなところで建築を作っています。

以前は東京にもいらっしゃいましたが、今福岡に拠点を置かれていて感じることは?

東京では大学で教員をしていましたが、福岡には取り組みの波及力があるなと感じていました。東京では「大海の一滴」になりますが、福岡は活動が認知されやすい、手ごたえを感じられるスケール感なので、NPO活動はその上に成り立っています。なにより生まれ故郷ですしね。

以前、松岡社長が街の魅力の要素として「そぞろ歩きがしたくなること」と言われていたのが印象的です。その視点から見て今の天神はどうですか?

お金を使わなくても楽しめる場所が都市の中にどれだけあるか、というのが重要なことだと思うんですよね。「そぞろ歩き」とは、目的なく歩いたり佇んだりすること。そういう場所がどれくらいあるか、という面では天神はこれからですね。

オープンテーブルの議論で、市民も巻き込んだまちづくりを

天神のまちづくりが向かっていくべき方向性について、どう思われますか?

日本の人口構成、人間の生き方、生産の仕方が変わっていく時代に、誰もが「これまでどおりではいけない」と思っているはず。建物を開発するときにも「下の方は商業空間で、上はオフィス」といった従来型も、そのうちあんまり意味がなくなるかもしれないですよね。

例えばテレワークが進むとオフィスの必要面積も減るかもしれない。そうすると、やたら床だけを作るのではなく、そこに来ないとできない体験とか、そこで働きたいからやっぱり家じゃなくてここに来るんだという魅力を真剣に作っていく必要があるのではないかと。福岡は元気がいいからと楽観視せずに、危機感をもって取り組んでいかなければと思っています。

街全体がひとつの方向性に向かっていくための仕組みづくりや意識の持ち方について、どう思われますか?

事業者にしかできないこと、行政にしかできないことがある中で、情報がどんどん開示されていき、まちづくりを検討するテーブルができるだけオープンになったほうがいいと思っています。大きな方向性としては行政がリードしていくけれど、皆で色んな議論をして、やっぱりこうだよね、と進んでいく。プロセスも「まちづくり」なので。

そうすると直接関係ない市民からも色々意見がでるかもしれないけど、結果的にはファンを増やすんじゃないかと。ただ日本って議論をあまりしないし、情報もオープンになりにくいので、そういう状況が作りにくいというところには現実あると思います。

そんな中でも、今は天神明治通り協議会やWe Love 天神協議会、博多街づくり協議会があり、さらに福岡地域戦略推進協議会があるなど、垣根を越えて一緒に作っていこうよ、という仕組みができている。それは本当にすごいことだと思います。

まずはお互い信頼しながら少しずつオープンにしていこうという気概が必要なのかもしれないですね。

街づくりのプランから実現のフェーズに入るときに、本当はもっと「街をどうしていこうか」ということを地権者に限らず多くの人たちがともに考えるべきだな、とも思っています。 ただ、議論しようとすると、それなりに哲学やその人なりの考え、ある程度の知見がないと、同列で議論できない。だから都市デザインに対しての市民のリテラシーが上がっていくことはとても大切なことだと思います。

生活のサイクルに取り込まれている営みが、街をもっと豊かにする

街の中に「こんなのあったらいいな」と思うことはありますか?

イベントは楽しくてよいのですが、ちゃんと問題に直面していないと感じる時もあります。生活する人間が健康で満足して豊かに過ごしているところにインバウンドも魅かれて訪ねてくると思うんだけど、それはイベントだけでなく、恒常的な場づくりによって生まれると思います。

例えば食。世界の大都市で、屋根のかかった常設市場があったり、「この公園に週末は必ずオーガニックのものだけが売られる市が立つ」のは普通のことです。パリもニューヨークも、「毎週〇曜日はここの市場で必ずちゃんとした食材を1週間分調達する」といった生活サイクルがあります。道を占拠しているから一見テンポラリーなものに見えても、イベントじゃないんですよね。恒常的な場なんです。

確かに、そういった生活の中に取り込まれているサイクルのようなものは、今の天神にはないかもしれません。

年に1回しか現れない「マルシェ」は生活サイクルにならないし、デパ地下に行って糸島の野菜を買っても、作っている人に会うわけじゃない。コンパクトシティ福岡ならではの地産地消が目に見える、そんな天神になってほしいです。

「遠景」「中景」「近景」視点で考える、天神の第2の地盤

色んな事業者がビルを建てていく中で、街としての景観をどう作っていくべきでしょうか?

景観というのは、同じレンガを積むとかタイルが同じ色で統一されているとか、そういう薄っぺらなことじゃありません。人の営みとハードウェアが混じって、場が生まれているのが景観です。それを「遠景」「中景」「近景」の視点で考えています。

まずは「遠景」。ニューヨーク、上海など20世紀の超高層ビルは高さや頂部のデザインをそれぞれで競い合った。対して天神は「集団」のスカイラインをつくれます。道が狭いので遠景からはビル群がかたまりに見えてくるのです。そのとき各ビルの高層階に、誰でも気軽に行ける公共的な場があればどんなに素敵で、しかも世界に類のないスカイラインになることでしょう。
例えば日当たりの良い南側は豊かに緑化すると、天空の森をつくることができます。大濠公園や舞鶴公園の緑が東に行くにつれて地上から天空に上るわけです。博多湾を見渡せる北側は、展望を楽しむ場所ができると、昼夜楽しめますね。そして船で海から福岡にやってくる人たちに福岡スタイルのスカイラインを見てもらえます。そういった高層階は「第2の地盤」になりえると思うのです。

「中景」は人が近づいてくるときの視点、例えば西鉄グランドホテルのある交差点あたりから天神交差点に向かって入っていくとき、中洲側から那珂川を渡るとき、渡辺通との交差点など。ゲート性といってもいいですね。重要な地点です。

「近景」は街の中の視点。例えばビルの中で働いているときに見えるのは、向かい側のビルですよね。もし中層レベルのテラスに緑があふれていたら、向かい側のビルで働く人にとっても気持ちよいかもしれない、とか。自分のビルの中だけが快適ということではなくて、相互関係で季節が感じられたりする、といったアイデア。「ご近所感」のあるオフィスビル街って素敵じゃないですか?そしてここで働く人たちはそのご近所にある色々な場を謳歌しながら、健康に気持ちよく仕事をし、ランチを食べ、知識を蓄え、文化に触れる。そんな天神の「景観」ができたら世界に誇れます。

中にいる人たちにとっては豊かな営みがあり、その光景が遠くから見ても魅力的になっている。想像するだけでワクワクします。

またこれからの都市には一見お金を稼げないパブリックスペースを充実させていくことが不可欠です。前述した、生活サイクルをつくる場、自然や眺望を楽しめる場など、街の価値を上げていく場所が散りばめられている天神。音楽を演奏したり、アートや工芸に触れたり、知を蓄え交換したりする場を増やしていく。だからこそ「ここで」働きたい、「ここで」時間を過ごしたい、と思ってもらえるのではないかと思います。

天神のミッションは、ハブとして九州を盛り上げること

最後に、天神だからこそ持つべき役割とはどんなものでしょうか?

福岡は九州中の経済を吸い上げていますよね。じゃあ九州に還元できることは何かというと、国内外から来る人達を九州のブランドにつなげる結び目としてのミッションです。玄関である福岡が九州のために何ができるか、そういう切り口で議論されたことがまだあまりない気がしていて、でもすごくそれは必要なことなんじゃないかと思っています。

そういったことができそうな団体は、どこでしょうか?

それはもちろん官民が力を合わせていくことで可能になるでしょう。私は実質的にパブリックスペースを運営する組織体を作りましょう、と呼びかけています。天神に九州の文化、工芸、農業、学びの場を散在させ、その器になるパブリックスペースをマネージをする組織をつくると、福岡外からも多様なスキルやリテラシーを持つ面白い人材があつまるんじゃないでしょうか。そうするとインキュベーションにもなりますよね。

OTHER INTERVIEWS

ページトップへ戻る